東洋医学の「肝」とは?不調になったとき、どんな症状がある?
こんにちは、鍼灸師のトミナガです!
東洋医学でいうところの「肝」とは、どういう働きをするのか?
西洋医学の肝臓との違いにも少し触れながら解説していきます(^^)
東洋医学の「肝」とは?
「肝」と聞いても、大体は肝臓を想像されるかもしれませんが少し違います。
西洋医学の「肝臓」の働きは・・・
・エネルギー代謝
炭水化物、タンパク質、脂質からエネルギーを産生する
・栄養素の貯蔵
腸から吸収されたビタミン(A、D、B12など)、鉄などを貯蔵して、体内に送り出す
・解毒
血液中の有毒物質を分解する。
たとえば、アルコールに含まれている有害物質アセトアルデヒド。
簡単に言うと上記の働きをしています。
東洋医学の「肝」の作用と似ている部分はありますが・・・
例えば、東洋医学ではエネルギー代謝は「脾」が担っているので、そういったところが少し違いますね(^^)
「肝」の働き
「肝」は、自然界に置き換えると木です。
自然界に照らし合わせて「肝」が木に当てはめられるのは、
枝葉が拡がっていくように、上向き外向きに「気・血・津液」を全身に送る特徴があるからです。
そんな「肝」の作用は2つです!
・疏泄作用
・蔵血作用
あまり馴染みのない言葉ですが、とても重要な生理的な働きをしています(^^)
特に女性は「血」にまつわる症状が出やすいので、「肝」と馴染みが深いです。
疏泄(そせつ)作用
「疏→ふさがったものを通す」「泄→押し出す」という意味で、全身に「気・血・津液」を必要な時に必要な分だけ流す作用をしています。
①「気」の働きを調節
疏泄作用の働きの一つとして、「気」の働きを調節するものがあります。
疏泄が正常な状態だと、「気」も正常に働き「血」や「津液」の流れも良い状態で保つことが出来ます(^^)
なので、もし疏泄作用が正常に働かなくなると、気滞・瘀血・痰湿という症状があらわれます。
・気滞とは、気が滞ること。
→身体が張ったような感じ、胃が痛む、胸肋部痛など
・瘀血とは、血の流れが悪い、停滞している状態。
→刺すような痛み、関節痛、月経痛など
・痰湿とは、身体に水が溜まっている状態。
→重だるい、浮腫みなど
②感情の調節
「気」の動きを調節している疏泄作用は、感情の動きとの関係も深いです。
例えば、外部環境によるストレスによって、イライラしたり、悲しんだり、思い悩んだりすると、「気」の働きが悪くなりますが、
「肝」の状態が正常できちんと疏泄作用が機能していれば、感情の動きを緩和させることができます。
逆に疏泄作用が不調だと「気」が上がりすぎたり滞った状態になって、感情の制御が難しくなります。
「気」が上がりすぎた場合
→落ち着きがない、怒りやすい
「気」が滞った状態
→鬱々とした気分、落ち込みやすい
たとえば、疲れているときっていつもなら腹が立たないことでもイラっとしてしまったり、悲しくなってしまうときってありますよね(^^;
そんなとき「ああ~疲れてんなあ」と思ったことは誰にもあるかと思いますが、
まさにそれがあらゆる要因によって疏泄作用がうまく機能しなくなって、「気が上がりすぎ」や「気が滞っている」という状態になってしまうんですね。
とはいっても、人の心ってそれだけでは説明できない部分もありますので、一つの要素として参考までに(^^)
③脾胃の補助
疏泄作用は、中焦(横隔膜からへそ)の「気」の動きを調節して、脾胃が正常に働くように補助しています。
④月経の調節
疏泄作用は身体中に「血」を送る作用なので、月経とは深い関係にあります。
なので、疏泄作用にうまく機能しないと月経痛・月経不順などの症状があらわれます。
蔵血作用
血を貯蔵、血流量を調節する作用です。
そのままの意味で、つくられた血を貯めることと状況によって血を流す量を調節するということですね!
この蔵血作用と疏泄作用、2つの作用が上手く機能することで、適切に血流量を調節できるようになります(^^)
たとえば、起きているときは活動をするために全身に血の量を調節(蔵血作用)して流す(疏泄作用)、
睡眠時は臓腑に多く血を流して(疏泄作用)滋養する(蔵血)。
(夜寝るときになっても血が「肝」に戻らない、もしくは戻るほどの血がない場合に不眠にななります)
・「肝」における陰陽のバランス
疏泄作用は”肝陽”、
蔵血作用は”肝陰”といわれていて、
この2つの作用がバランスよく機能することで、外向き上向きに行きやすい「肝」を抑えることができます(肝陽の亢進を抑えるともいいます)
もし、貯める血が不足してしまうと身体中を休めることができなくなるので、筋の痙攣・しびれなどが起こります。
また、蔵血(肝陰)が疏泄(肝陽)を抑えられなくなり亢進してしまうので、
吐血や鼻血、喀血(気管支や肺から)、不正出血などの出血症状があらわれますが、
逆に、疏泄の亢進が先でも貯める血が少なくなって同じような出血症状があることがあります。
(むしろ、疏泄が亢進することが多いです)
「肝」と関連が深いもの
東洋医学には数えきれないほどの治療家たちの経験・生体実験の結果、生み出された五行色体表というものがあります。
それは自然界から人体の部位や働き、病気の原因・病理・病証などを五臓(肝・心・脾・肺・腎)にそれぞれ分類したものなのですが、
その五行色体表で「肝」に分類されているものが、以下です(^^)
※太字になってるところを解説していきます。
五臓 | 五腑 | 五行 | 五季 | 五竅 | 五主 | 五液 | 五華 | 五精 | 五悪 | 五労 | 五色 | 五志 | 五味 |
肝 | 胆 | 木 | 春 | 目 | 筋 | 涙 | 爪 | 魂 | 風 | 歩 | 青 | 怒 | 酸 |
「肝」と関連が深い身体の部位
「肝」と関連が深い身体の部位は、「目・筋・涙・爪」。
「肝」に何らかの異常があるときに、変化が見られやすい部位ということですね(^^)
①目・涙
目は「肝」の通り道(肝経)を通じて栄養を受け取っているため、「肝」の機能が反映されやすいです。
また、涙は目を潤して保護する作用があるため、同じく「肝」の領域になります。
もし、「肝」の機能が不調になると・・・
目の充血(目赤)、目のかすみ、ドライアイなどの症状があらわれます。
②筋・爪
筋といっても、腱・靭帯・筋膜・筋組織・・・と広く当てはまります。
これらは「肝」から栄養をもらって正常に機能できているので、「肝」の領域になります(^^)
東洋医学では、爪は「筋余」ともいわれていて、筋と関連する組織(タンパク質)に当てはまります。
「肝」の血が不足するとこむらがえりやしびれなどを起こしやすくなり、爪にも縦筋が出たり、変形したりと不調が現れます。
「肝」と関連が深い精神・感情
「肝」と関連が深い精神的な活動は、魂。
「肝」に不調があると現れやすい感情は、怒。
①魂
魂は、精神活動を調節・制御する役割があるのですが、
特に「思索・評価・判断」などの精神活動は「肝」と関係が深いものになります(^^)
つまり、「肝」が正常に機能していれば、”物事を決断して実行に移す力”が出るということですね。
逆に「肝」が不調になると・・・
決断力がなくなり根気が弱っていきます。
②怒
「疏泄作用:②感情の調節」のところでも触れましたが、
「肝」は気の働きを上向き外向きに押し出す作用があるので、それが過剰になってしまうと「怒」という感情が現れやすくなります。
(怒っているとき「頭に血が上る」という表現をしますよね)
逆に「肝」の調子が良いときでも、「怒」という感情を急激に感じる、または長期にわたって感じてしまうと「肝」が不調になります。
どんなに穏やかな人でも、イライラさせられるような環境に長期間滞在していると、不眠症や、肩がこりやすい、怒りっぽくなるのは想像がつきやすいかと思います(^^;
ちなみにですが、
「肝」の血が不足した場合(虚)は、鬱々とした落ち込みやすい、不平を言ってしまいがちになり、
「肝」の血が上がりすぎた場合(実)は、イライラして腹が立つ、力が入ったような大声で命令口調となります。
「肝」が不調になったときに好む味
「肝」が不調になったときに欲しくなる味は、酸。
酸はすっぱいものですね(^^)!
酸味には”集める”といった作用があります。
なので、「肝」が上向き外向きに気や血を押し出しすぎているときに、酸味のあるものを摂れば調和させることができる、ということです。
疲れているときには、すっぱいもの!と昔からよく言うのは、こういうところからも来ていると思います。
科学的には、クエン酸がエネルギー代謝を促進させるからですね。
とはいっても、科学も何もない何千年も前の医療書「黄帝内径」に、肝が不調なときにすっぱいものと書かれていたのですから、東洋医学は本当に侮れないですね。
しかし、酸味を過度に摂ると、逆に筋が固くなるとも言われているので、適度にしないといけません(^^;
「肝」が不調になったときの症状は?
東洋医学において「肝」にまつわる症状でよくあるのは・・・
・肝鬱気滞(肝気鬱結)
・肝火上炎
・肝血虚
・肝陰虚
・肝陽上亢
以上のものです(^^)
肝鬱気滞(肝気鬱結)
突然の衝撃的な精神的ストレスや、長期にわたって気分が落ち込んでいるなどでおこりやすい病証です。
これは現代のストレス社会において、よくみられるものです。
・症状
怒りっぽい、イライラする、鬱々とした気分、胸肋部痛など。
また長期化することで、喉に何か詰まっている感じ(梅核気)や、
女性においては、子宮に気や血を送る道(経絡)に気が滞ってしまうことで、血も溜まってしまい(血瘀)、
月経不順や月経痛、かなり著しいときには不妊症になってしまうことも。
他にも、ノイローゼや更年期障害もこれに当たります。
・原因
ストレス・情緒の乱れによって、「肝」の機能の柔軟性がなくなり、疏泄作用(気・血・津液を全身に流す)が低下します。
それによって気の働きが滞り、上記のような症状がみられるようになります。
肝火上炎
先ほどの肝鬱気滞(肝気鬱結)がさらに長期化・精神的なストレスなどが加わったものです。
・症状
身体的には・・・
頭痛、めまい、耳鳴り、難聴、顔面紅潮、目の充血、口が渇く、身体がムズムズする、便秘、月経過多、脇が熱い、吐血など。
精神的には・・・
不眠で夢が多い、怒りっぽく、落ち着きがないなど。
・原因
肝鬱気滞(肝気鬱結)が長期化したことで、熱が上がったため。
また、辛い食品の食べ過ぎやお酒の飲みすぎが原因になることもあります。
肝血虚
「肝」の血が不足したことによって、筋・目・爪などの栄養障害、月経異常などが起こるものです。
・症状
めまい・夜盲症・目のかすみ、耳鳴り、不眠、生理不順、夢が多い、顔や爪の色が悪い、手足のしびれ、足がつる、貧血など。
・原因
脾胃から送られてくる栄養の不足(主にビタミンA)、
「肝」の疏泄作用が強くなりすぎたことで蔵血作用が弱くなる、
もしくは大量出血によるものです。
肝陰虚
先ほどの肝血虚が慢性化することで、「肝」に必要な水分が少なくなり、身体と養う作用と心を養う作用が低下して起こります。
・症状
ドライアイ、目の異物感、手足のしびれ、ほてりやのぼせ、寝汗、情緒不安定など。
・原因
「肝」が貯めている血が少なくなることで身体に熱が発生し、液が少なくなるので上記のような症状があらわれます。
寝汗に関しては、睡眠時に臓腑を休めるために液が収まってしまうので、全身の陽を抑えられなくなり、熱が強くなるため。
肝陽上亢
肝陰虚によって、陰液が不足して肝陽(疏泄作用)が亢進した状態です。
・症状
肝陽が亢進したことで、気の働きが上がりすぎて気や血が頭に集中すると、めまい・耳鳴り・頭痛などが起こります。
また、肝陰虚と同じく、熱が生じて、のぼせやほてり。
影響が「腎」にまで及ぼすと、腰や膝のだるさ、無力感などが起こります。
他にも、イライラ、不眠、夢が多い、動悸、健忘など。
・原因
過度の肉体労働・性交渉(「腎」からの影響)によるものだったり、
激怒したことで、肝陰が肝陽を抑えられなくなるものだったりと原因はいろいろとありますが、
要は、肝陰虚によって陰が陽を抑えられなくために、様々な症状が起こります。
「肝」の不調によって出る症状は、五行色体表にある「目・涙・爪・筋・怒」にまつわるものが多いですが、
中には、「不眠・耳鳴り・動悸・忘れっぽい・腰や膝のだるさ」などの症状も付随することもあります。
五行色体表の「肝」の並びでは見られないものが症状として現れているのは、
「肝」の不調が他の五臓にまで影響が及んでいるからですね(^^)
例えば・・・
不眠・動悸・忘れっぽいなどは「心」。
耳鳴り・腰や膝のだるさは「腎」。
このように多くの場合、「肝」は「肝」だけというわけではなく、他の症状も診て判断していかないと改善しないこともあります。
大切なのは、全体的なバランスですね!
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