東洋医学の「腎」とは?不調になったとき、どんな症状がある?
こんにちは、鍼灸師のトミナガです!
東洋医学での「腎」とは何か?どういう働きをするのか?
西洋医学でも、腎臓はよく聞きますよね(^^)
とはいっても、「腎」と腎臓では少し似ている部分もあれば、全く違う働きをしていることもあります!
東洋医学の「腎」とは?
まず、西洋医学での腎臓の働きは以下です!
・尿をつくる
血液をろ過して、必要なものは再吸収、排泄物は尿として身体の外へと出す。
・身体のph(酸性・アルカリ性)の調節をする
ナトリウム、カリウム、カルシウム、リン、重炭酸イオンなどから必要なものは体内に取り込んで、不要なものは尿として排出。それによって、血液を弱アルカリ性に保つ。
・血圧を調節する
塩分と水分の排出量をコントロールして、体液量と血圧を調節している。
・血液(赤血球)をつくる働きを助ける
腎臓から出るホルモン(エリスロポエチン)の刺激によって、骨髄から血液(赤血球)がつくられる。
・骨の育成
骨の育成に必要なビタミンDをつくる役割
西洋医学においても、腎臓は主に体内の水分のバランスを整えるなど、かなり重要な役割をしていますね!
水分に関することは、東洋医学の「腎」と似た働きになります(^^)
「腎」の働き
「腎」は、自然界に置き換えると水です!
海や湖もそうですね(^^)
「腎」が水(海・湖)とされる理由としては・・・
海が生命誕生の場所でいろんな変化を生み出したと言われているように、「腎」も成長・発育・生殖など、生命力に関することに深く関係しているからですね!
成長・発育・生殖を主っているのは親から受け継ぐ”先天の精”ですが、それを保存しているのが「腎」なんです。
この”先天の精”と食べ物などから後天的に生命力を補充する”後天の精”が、生命の基礎的な機能を担っています。
そんな重要な役割を担っている「腎」の生理作用は3つ!
・蔵精
・主水(水を主る)
・納気
主水(水を主る)の作用が、西洋医学の腎臓と似ている部分かな、と思いますが蔵精や納気などは全く異なる働きなんですよね(^^)
蔵精
「腎」は精を貯蔵しているという意味です!
精とは気の源であり精が充足していれば身体全体の気も充足します。
飲食物から得た精は必要に応じて五臓に配られ余った分は「腎」に貯蔵されるのですが、それを腎精ともいいます(^^)
①精を貯蔵する
「腎」は精を貯蔵するとともに、身体の構成や生命活動を維持するために必要な精が漏れないようにしています。
もし、この精を貯蔵することができないと・・・
生命活動の調節に影響が出る他にも、不随意的な射精などで生理物質が漏れだす症状が起こります。
②精の役割
腎精は、気血を生み出す基本的な物質で、成長・発育を促進しています。
また、腎精が充足してくると天癸(てんき)が作られ、生殖機能が備わります。
その他にも、髄海(脳)を養うという役割もしています。
もし、精が不足すると・・・
気血が十分に作られないことで、成長不良・発育不良などになる他に、身体の抵抗力が落ちて、虚弱体質、風邪を引きやすい、という症状が起こります。
また、天癸(てんき)が十分に作られないことで、不妊症・無月経・性欲減退・EDなど。
髄海(脳)を養うことができず、耳鳴り・難聴・めまい・脱毛・忘れっぽいなどの症状が起きます。
③生命活動を調節
腎精は原気を作り出します!
原気は人体において最も根本的な気で、生命活動の原動力となる気です。
原気は三焦(組織・器官以外の領域・生理物質の通り道)を通って各臓腑に運ばれ、それが各臓腑の生理機能の原動力となります。
もし、腎精が不足して原気が作り出されないと・・・
臓腑の機能が低下し、倦怠感や無力感などが起こるようになります。
主水(水を主る)
「腎」は津液の代謝機能に大きく関わっています。
これが西洋医学の腎臓と似た働きになりますね!
「腎」は五臓の中でも深層部に位置していて、身体の一番低いところで体内を巡った津液を受け止めてます。
例えば、雲から雨が出て海や湖で受け止めるように、
「肺」の粛降作用によって降りてきた津液を「腎」で受け止めます。
この過程で「腎」に蓄えられた津液を”腎陰”といいます。
また、太陽の熱を海や湖で気温調節するように、
「心」の熱は「腎」に蓄えられます。
この過程で「腎」に蓄えられた津液を”腎陽”といいます。
このように、”腎陰”と”腎陽”が作られ、全身の陰陽のバランスを維持しています。
もし、”腎陰”が不足し陰虚になると、ほてり・のぼせなどが起こり、
”腎陽”が不足し陽虚になると、寒がり・冷えなどが起こります。
・水分代謝の調節について
身体の水分代謝は、「腎」が「脾」と「肺」の機能を補助して尿が排泄されることで、調節されています。
以下の画像のような流れですね(^^)
このように、水分代謝を行って生命活動の維持に重要な役割をしています!
「腎」の機能が弱り、主水の作用に影響が及ぶと・・・
津液を「肺」に送ることが出来ず、身体に水分が溜まって、むくみなどが起こります。
また、水液の排泄に支障をきたすことで、下痢、夜間尿、尿がでにくい、などの症状が起こります。
納気
納気とは、吸気を補助して深く吸い込ませ、呼吸のバランスを保つ機能のことです。
呼吸は「肺」によるものだけではなく、「腎」の納気による補助を受けて初めて正常に機能します。
西洋医学とは大きく異なる部分の一つですね(^^)
もし、「腎」が弱って納気が不十分となると・・・
深い吸気ができず、咳がでる・喘息・呼吸困難などの症状が起こります。
「腎」と関連が深いもの
東洋医学には二千年以上の歴史があるので、数えきれないほどの治療家たちの経験・臨床結果があります。
そこから生み出されたものが、五行色体表です。
それは、自然界から人体の部位や働き、病気の原因・病理・病証などを五臓(肝・心・脾・肺・腎)にそれぞれ分類したものです。
その五行色体表で、「脾」に分類されているものが、以下です(^^)
※今回は太字になっているところだけを解説していきます。
五臓 | 五腑 | 五行 | 五季 | 五竅 | 五主 | 五液 | 五華 | 五精 | 五悪 | 五労 | 五色 | 五志 | 五動 | 五病 | 五香 | 五味 | 五声 | 五穀 | 五畜 | 五菜 | 五果 |
腎 | 膀胱 | 水 | 冬 | 耳 | 骨 | 唾 | 髪 | 志 | 寒 | 立 | 黒 | 恐 | ※慄 | 欠 | 腐 | ※鹹 | 呻 | 豆 | 豚 | ※藿 | 栗 |
※慄(りつ):おびえる
※鹹(しおからい)
※藿(かく):豆の葉
「腎」と関連の深い身体の部位
「腎」と関連が深い身体の部位は「骨(髄)・髪・耳・唾」。
「腎」が弱っていると反応が現れやすい部位ですね。
①骨(髄)・髪
髄は精からつくられ、部位によって、骨髄、脊髄、髄海と呼ばれます。
骨髄は骨の中にあるものいい、脊髄は脳(髄海)から連なっている人体の中心にあるものですね!
またこの髄は、骨を養っています。
ちなみにですが、歯は骨余と呼ばれていて、歯も精に養われます。
髪は血余と呼ばれ、精から作られた血から養われているので、髪の色・艶・量は、血や精の状態が反映されます。
もし、精が不足すると・・・
・骨を養えていない場合は、
小児だと発育不全などが起こり、成人では骨密度の低下・歯がぐらつくなどの症状が起こります。
また、重いものを持てなくなり、腰や膝に症状が現れる場合もあります。
・髄海(脳)を養えていない場合は、
五官に影響が及ぶので、視力の低下・耳鳴り・難聴・忘れっぽいなどが起こります。
・髪に影響が現れた場合は、
白髪になったり、髪が抜けやすくなります。
②耳
五官の中でも、耳は「腎」と密接な関係があり、
精がしっかり髄海(脳)を養えていれば、耳も正常な機能を保つことが出来ます。
耳は「心」とも関係していて、
もし「腎」の津液が不足して熱が発生すると「心」にも熱が多くなり、耳鳴りがしたり、聞こえにくくなってしまいます。
③唾
唾は口腔内の津液なのですが、腎精が変化したものだと言われています。
なので、唾を飲み込むことで腎精を養うことが出来るという養生法もあるそうです(^^)
「腎」と関連が深い精神・感情
「腎」と関連が深い精神は、志。
「腎」と関連が深い感情は、恐・驚。
①志
志とは、思考・記憶・経験などを保存していくことで、
”目標の達成を目指して心を向け、継続してやる力”が関係しています。
なので「腎」が弱ると、根気強く物事を継続して行うことができない、物忘れが激しいなどの症状が起こるとされています。
②恐、驚
「腎」が弱ってくると、「腎」の保存するという特性に影響が及んで、気の働きが乱れたり下ったりしやすくなります。
気の働きが下ったときには、些細なことで怖がったり、ビクビクしやすくなり(恐)、
気の働きが乱れたときには、些細なことで驚いたり、小さな音でビックリしやすくなります(驚)。
なので、「腎」が未熟な小さな子供などは、恐れ驚きやすいとも言われています。
逆に、この感情が現れることで行動的にならずに、津液を消耗しないようにしているとも考えられますね(^^)
「腎」が不調になったときに好む味
「腎」が不調になったときに欲しくなる味は、鹹(しおからい)。
塩味のことですね!
塩味には、下す・軟らかくする・散らす、という作用があります。
「腎」には保存する・封じる特徴があるのですが、
「腎」は津液が多いので、特徴が強く出すぎてしまうと冷えてしまいます。
それを塩味によって中和させることができるんですね(^^)
しかし、塩味を摂りすぎてしまうと・・・
保存する・封じる作用に影響が出て、いろんな生理物質が漏れ出てしまいます。
結果的に、高血圧や多尿などが起こります。
「腎」が不調になったときの症状(病証)は?
東洋医学において、「腎」にまつわる病証でよくあるのは・・・
・腎精不足
・腎気虚(腎気不固・腎不納気)
・腎陽虚
・腎陰虚
以上のものです(^^)
腎精不足
腎精が不足し、精の機能が弱っている状態として現れます。
・症状
先天の精が不足している場合は、
幼児の成長・発育不全、発育が遅れたり、知力が低く動作が鈍くなるなどが起こります。
また、早老や虚弱体質なども先天の精の不足による場合もあります。
※先天の精には個人差があるので、症状が軽い場合は病態として判断しないことも。
生殖機能が弱まった場合は、
性欲減退、不妊症、ED、無月経などが起こります。
髄海(脳)を養えていない場合は、
耳鳴り、難聴、めまい、視力が悪くなる、忘れっぽい、脱毛などが起こります。
他にも、「腎」の機能が弱くなり精が不足したときは、腰や膝に力が入らない、だるいなどの症状が。
・原因
先天の精の不足、不摂生な性生活、栄養不足、肉体的な疲労、慢性疾患によるもの、老化。
腎気虚(腎気不固・腎不納気)
「腎」の機能が全体的に弱くなったときに現れる病証です。
腎気不固とは、腎気虚によって保存する・封じる作用が低下し、いろんな生理物質や尿が漏れ出すこと。
腎不納気とは、腎気虚によって納気(吸気)が低下し、喘息・息切れ・空気を吸いきれない状態になること。
・症状
「腎」の気が不足すると原気が作られなくなるので、精神的な疲労・倦怠感が起こります。
腎気不固では、本来留めておくべきものを留めることができずに流れてしまうため、
おねしょ・頻尿・流産・早産などが起こりやすくなります。
腎不納気では、呼吸を深く吸い込むことができないため、呼吸困難・息切れ・呼気が多く、吸気が少ないなど。
・原因
加齢によって腎気が不足したとき、
不摂生な性生活が続いたとき、
長期にわたってオーバーワークが続いたときなど。
腎陽虚
腎陽の不足によって、温める作用・気化する作用が低下した病証です。
・症状
陽気の不足で温める作用が弱くなると、
膝・腰・腹部・四肢の冷え、寒がりなどの症状が起こります。
また、腎陽は生殖器・尿道・肛門の機能に携わっているので、
腎陽が不足すると、泄瀉(流れるような下痢)や夜間尿が起こります。
他にも、膝や腰がだるい、精神疲労、ED、不妊症など。
・原因
先天的な虚弱体質、
慢性病による体力や抵抗力の低下、
過労、不摂生な性生活、ストレス、高齢、炎症性の感染症など。
腎陰虚
腎陰が不足した状態で、陰虚(のぼせ・ほてりなど)の症状が起こります。
・症状
陰液の不足によって、相対的に陽が強くなるため、手足のほてり・のぼせなどが起こります。
これが強くなりすぎると、前胸部にまで熱感を伴うようになります。
また、皮膚や口腔内を潤すことができないことで、皮膚の乾燥・口が渇く。
睡眠中は臓腑を養うためにたくさんの陰液を使うため、身体の熱感の程度が強くなり、寝汗なども。
他にも、精が不足することで、腰や膝のだるさ。
熱が「心」にまで影響を及ぼすと、不眠が起こります。
髄海が十分に養われなくなると、耳鳴り・難聴など。
・原因
先天的・遺伝的なもの、
慢性疾患によるもの、
炎症による熱性疾患によるもの、
不摂生な性生活、高齢、大量失血、脱水、精神的なもの、
食中毒、薬物中毒など。
東洋医学において「腎」は、体内の水分量の調節だけではなく、成長・発育・生殖器などの機能にも関係しています。
昨今、不妊症治療などで鍼灸や漢方を選ばれることが多くなりましたが、
西洋医学とはまた違った視点での治療になるので、逆に成果があった声も多いそうですね(^^)
どれが一番いいか?などは、その人の体質や状態にもよるので、一概には言えませんが・・・
どちらも選択肢から排除せず、良いところ取りができればベストですね!
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