【免疫編】鍼灸治療の効果とは?体に及ぼすメカニズムを解説します!

鍼灸治療は自然治癒力を高める、そう聞いたことがあると思いますが・・・
この自然治癒力こそが免疫細胞のことなんです^^
といっても、鍼灸治療が免疫細胞をいたずらに増やすわけではありません。
「免疫機能を調節する」、これが正しい表現になります。

免疫とは、人体を外部のウイルスから守ったり、傷を治す働きがあることは有名ですよね。
しかし、「慢性痛の原因になってしまうこともある」ということは、ご存じない方も多いのではないでしょうか。
どういうことかというと・・・
免疫細胞は細菌やウイルスと戦うため、または傷を治すために炎症を起こすのですが、
何かしらの原因(ストレスなど)によって、免疫機能が乱れてしまうことがあります。

その結果、炎症反応が長く続き、慢性痛の原因となってしまいます。
代表的な疾患として・・・関節リウマチ、炎症性腸疾患、アレルギー疾患などですね。
実は鍼灸治療がこの免疫機能を改善することがわかっています。
つまり、免疫細胞の働き、炎症をコントロールすることができるんですね。

これは自律神経を調節することにもかかわっていますが、今回は免疫機能にフォーカスしていきます。
特に自己免疫疾患にお悩みの方には、鍼灸治療を選択の1つにするかどうかの判断材料にしていただけると思います^^
参考になれば幸いです!
そもそも、免疫細胞とは?
鍼灸治療がどう免疫細胞にかかわっていくか?
これを知っていただくためにも、そもそもの話をさせていただきますね(^^)
免疫細胞は大きく分けると2つで、自然免疫と獲得免疫に分けることができます。
自然免疫と獲得免疫
・自然免疫
→先天免性免疫ともいい、生まれつき備わっている免疫たち。
◇樹状細胞
体内に侵入した病原体をいち早く見つけ出して、速やかに免疫系を作動させる監視役。

◇マクロファージ(単球)
自然免疫の中でも大きな役割がもつ。
炎症を引き起こす物質を出し、細菌やウイルスを排除しようとする状態(M1)、
炎症を抑えて細胞分裂や修復を調節する状態(M2)。
真逆な状態の役割を持ち、これらを行ったり来たりと免疫を調節しています。


◇顆粒球
好中球、好酸球、好塩基球に分けられます。
・好中球→細菌や異物を取り込んで分解、消化する作用。
・好酸球→寄生虫を排除する作用。
・好塩基球→ヒスタミンなどの物質を分泌、血管の透過性を増す作用。

◇肥満細胞
体中の血管組織、皮下組織、肺、消化管、肝臓などに広く分布され、異物の侵入を防ぎます。
細胞内にはヒスタミンやプロスタグランジンといった炎症物質を含んでいるため、ふくらんでいるように見えます。
IgE(免疫グロブリン)というタンパク質が付着しており、アレルゲンと反応するとヒスタミンなどの炎症を引き起こす物質を放出し、アレルギー反応を起こします。

◇NK(ナチュラルキラー)細胞
ウイルス感染細胞やがん細胞を攻撃する。

・獲得免疫
→体内に侵入した異物を記憶、効果的に排除できるようにする。
◇ヘルパーT細胞
胸腺で生まれ、ナイーブT細胞として外へ排出、病原体を見つけたらエフェクターT細胞に変化。
※エフェクターT細胞はターゲットとなる病原体によって、Th1、Th2、Th17へと各々分化します。

・Th1細胞・・・結核菌やウイルスに対して。
(過剰になると炎症性疾患や自己免疫疾患に関連する)
・Th2細胞・・・寄生虫に対して。
(過剰になるとアレルギー疾患に関連する)
・Th17細胞・・・細菌やガンジダ菌に対して。
(過剰になると自己免疫疾患や組織の損傷に関連する)
※Th2細胞はストレス(副腎皮質ホルモンの過剰分泌)によって過剰になることがわかっています。
◇制御性T細胞(Treg細胞)
Th1、Th2、Th17の働きを抑制するので、過剰な炎症を抑えます。
Treg細胞を強化できれば、自己免疫疾患やアレルギー疾患の治療に役立つと考えられています。

◇B細胞
抗原(アレルゲン)に対する抗体をつくる。
鍼灸治療によって調整される免疫細胞
ざっと免疫細胞について書いていきましたが、その中でも鍼灸治療とかかわってくるものは?
それは、マクロファージと制御性T細胞(Treg細胞)です。
鍼灸治療とマクロファージ:炎症を抑える
マクロファージはとても重要な役割を担っています。
1)炎症を引き起こす物質を出し、細菌やウイルスを排除する(M1)
2)炎症を抑えて細胞分裂や修復を調節する(M2)
鍼灸治療はこのマクロファージをM2の状態にすることが確認されています。
つまり、炎症を抑えるということですね!
鍼灸治療と制御性T細胞(Treg細胞):免疫反応を調節する
制御性T細胞(Treg細胞)とは、エフェクターT細胞を適切に抑制する細胞でしたね。
もし制御性T細胞がうまく機能せず、エフェクターT細胞が過剰に活性化したりすると、
炎症性疾患、自己免疫疾患、アレルギー疾患などを引き起こします。
鍼灸治療はその制御性T細胞(Treg細胞)の働きを活性化させることがわかっています。
活性化させるだけではなく、
ヘルパーT細胞の分化を抑えてエフェクターT細胞の数と制御性T細胞(Treg細胞)の数を是正する作用も働きもすることがわかってきたそうです。
好中球やNK細胞の活性化にも!
鍼灸治療はマクロファージや制御性T細胞(Treg細胞)だけではなく、
・細菌や異物を取り込んで分解・消化する作用がある好中球
・ウイルス感染細胞やがん細胞を攻撃するNK(ナチュラルキラー)細胞
の活性化を促す作用もあることがわかっています。
鍼灸治療はどのようにして免疫細胞に作用するのか?
鍼灸治療によってどんなメカニズムで免疫細胞に作用するのでしょうか?
そのルートは4つあります。
①細胞が傷つくことで免疫細胞が活性化する
鍼が体内に侵入したりお灸によって熱せられたりすると、皮膚などが損傷を起こします。
損傷が起こった部位には、マクロファージ、好中球、肥満細胞、NK(ナチュラルキラー)細胞などの免疫細胞が集まり、炎症反応が起こります。
鍼をすると皮膚が赤くなる現象が起こりますが、これを軸索反射といい、まさにこの免疫細胞が集まっている状態なんです。
「傷つく」と聞くと、痛い・怖いイメージを持たれるかもしれませんが、
痛くない鍼でも軸索反射は起こりますので、安心していただければ(^^)
(※軸索反射については【鎮痛作用編】で詳しく書いています。)
②ストレスホルモンを放出する2つの系(HPA軸とSAM軸)を整える
ストレスで免疫が下がる、これはよく聞きますよね。
実際に体感されたことがある方も多いと思います。
では体内ではどんなことが起こっているのでしょうか?
まず、体はストレスとなる物事に対抗するためにストレスホルモンを放出し、心拍数や血圧、血糖値を上げて闘う準備をします。
短期的なものであれば活動するためにも、なくてはならない作用です。
しかし、この状態が長く続いてしまうと、免疫細胞は乱れ、風邪をひきやすくなったり、特にアレルギー疾患を悪化させる原因にもなります。
ストレスホルモンを放出するのは、
「視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA軸)」
…ステロイドホルモン(コルチゾール)
「視床下部-交感神経-副腎髄質系(SAM軸)」
…アドレナリン、ノルアドレナリン(カテコールアミン)
この2つの軸です。
では具体的にどんなメカニズムが生じて免疫機能が乱れてしまうのか?を見ていきたいと思います。
慢性的なストレスなどによってストレスホルモンが過剰になると・・・
1)NK(ナチュラルキラー)細胞、肥満細胞などの働きを抑制して、免疫細胞の数が減ってしまう。
→免疫機能を低下させて、病原体に感染しやすくさせてしまう。
2)エフェクターT細胞のバランスを乱れさせ、炎症反応を促進してしまう。
→アレルギー疾患の原因にもなるTh2細胞を増やし、アレルギー疾患の悪化の原因に。
といったように、免疫細胞のバランスが乱れてしまうんですね。
まさに、ストレスがありすぎると風邪をひいたりアレルギーが悪化したりするのは、このようなメカニズムが働いていたからなんです。
前置きが長くなってしまいましたが・・・
鍼灸治療は問題となりやすいHAP軸とSAM軸の働きを調節し、免疫機能を正常にすることがわかっています。
③脾臓がかかわる抗炎症作用を増強する
脾臓はT細胞やB細胞などの免疫細胞が集まる大切な臓器です。
体内で炎症反応が過剰になっている場合、
脾臓を介して炎症の原因となる「炎症性サイトカインTNF-α」の産生が減少し、炎症反応が抑制されます。
この作用には迷走神経が関わっているのですが、
迷走神経が分布している耳への鍼灸刺激が、脾臓での抗炎症作用を増強させることが動物実験でわかっています。
④足三里穴による抗炎症作用
2014年にアメリカやメキシコの免疫学者らがMedicine誌にて、
足三里穴の鍼通電により「足三里-迷走神経-副腎髄質」を介して抗炎症メカニズムが起こることを発表しました。
脾臓を介する抗炎症メカニズムも同じく迷走神経が関わりますが、
足三里が起点となること、抗炎症を及ぼす臓器やホルモンが全く異なることから話題を呼んだそうです。
その実験内容とは・・・
重篤な敗血症(全身性炎症反応症候群)のモデルマウス
・鍼通電しなかったマウス→2日目までにすべて〇亡
・鍼通電を行ったマウス→50%生存
※鍼通電を行うことで、炎症反応を示すサイトカインTNF-αが減少した
以上が鍼灸治療が免疫に及ぼす効果やメカニズムでした!
免疫の話になるとかなりややこしい話、カタカナが多いですよね(笑)
とにかく免疫機能を整える作用があるんだな~、と知っていただければ嬉しいです^^
鍼灸治療を選択されるかどうかの参考になれば幸いです。
参考文献:
1)山本高穂,大野智:東洋医学はなぜ効くのか?
2)矢野忠,川喜多健司:鍼灸臨床最新科学殻-メカニズムとエビデンス
3)熊澤孝朗,西條一止:鍼灸臨床の科学
4)斎藤紀先:休み時間の免疫学(第3版)
5)鈴木郁子:やさしい自律神経生理学 命を支える仕組み
【この記事を書いた人】

大阪訪問鍼灸師(旭はりきゅう)
・鍼灸師歴10年
・漢方養生指導士
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